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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)1986号 判決 1949年11月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人長友安夫の上告趣意第一点について。

論旨は被告人の所為は或は急迫不正の侵害に対する防衛の如く思はれる又正当防衛論も立つべき事案であろう、更に進んで心神喪失の状態において為されたものではないかという疑もないではないと言うのであるが、記録を精査しても事実審においてかかる事実の主張がなされた形跡はなく原審も右の事実を認定しなかったのである。從って原審がこれについて特に判断を示さなかったからといって所論の違法ありということはできない。

更に論旨は被告人の所為は殺意を以て行われたと認むべき証明がないから傷害致死罪を以て処断すべきものであるというのである。しかし原判決は被告人の殺意の点を「兇器の種類、攻撃の箇所、回数並びに部位程度に徴し」て認定しているのである。然らば原判決がこの証拠と原判示他の証拠とを綜合して判示事実が刑法第一九九條殺人罪に該当するものと所断したことは正当である。論旨は理由がない。

同第二点について。

所論は被告人には殺人の意思がなかったから死体遺棄の犯意もなかったというのである。しかし前段説示したように原判決は被告人に殺意があったことを判示しているのである。然らば人を殺した者が、その殺した死体を屋内床下に運び之を隠匿した本件被告人の所為は正に刑法第一九〇條所定の死体を遺棄した行為に該当するものである。被告人が合掌したり、死者の冥福を祈ったりしたこと又は右死体がその監視内にあったことは本件犯罪構成要件とは関係がないものである。論旨は理由がない。

同第三点について。

しかし裁判所が、罪を犯し未だ官に発覚しない前に自首した者に対しその刑を減軽するか否かはその専権に属する。そして裁判所は自首減軽の必要がないと認めたときは、たとえ自首の事実があっても特にその理由を判示する必要はないのである。本件において原審は被告人自首の点について証人松永俊四郎を訊問したことは所論の通りであるが、原判決は特にそのために被告人に対する刑を減軽する必要がないものと認め之を判示しなかったことは一件記録に徴して明である。されば原判決には審理を盡さなかった違法はないから論旨は理由がない。

よって刑訴施行法第二條、旧刑訴法第四四六條により主文の通り判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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